2023/03/12

歴史には、はたして軌跡とでもいうべきものがあるのだろうか。
これは、歴史自体に何らかの目的、たとえば神が定めた計画の成就や、特定の政治的ないし社会的・経済的システムの必然的な勝利といった目的をもつのかどうかという疑問と同じではない。

人類史においては国家や帝国、文化、イデオロギー、宗教がたえず生まれ、滅んでいるが、それらをみれば、歴史には何の目的も必然性もないことがわかる。しかしながら、歴史的出来事の一貫性のない皮膜の下で、人類史はほば途絶えることなく明確な軌跡を描いてきた。約1万年前に最終氷期が終わって以降、地球上の人口は増加傾向を示し、都市や経済も発展した。
文化・文明間の交流が拡大し、社会や経済の複雑化ないし高度化もほとんど妨げられることなく進行していった。
本書は世界の歴史のこのような展開を、地図や解説文、年表、さらに写真や図版で容易に一望できるようにしたものである。
人類の歴史は、生産形態の数多くの段階的変化、すなわち社会的・文化的・政治的変化を促し、たえず世界をつく り変えた大衆運動を引き起こし、あるいはそれを可能にした変化によって特徴づけられてきた。
先史時代の大半にわたって、人々はみな野生動物の狩猟と食べられる自生植物の採集によって生きていた。

彼らの数は、他の動物同様、自然環境からの恵み次第だった。
氷河期が終わると、世界各地の人々の集団は、それぞれが食料自給を確実にするための手段として農耕をはじめるようになる。
こうした最古の農耕社会が中東地域で興ったのは、けっして偶然ではない。
そこは栽培や飼育に適した植物や動物が世界でもっとも豊富だったからである。
この発展は人口の膨大な増加を可能にするもので、人類史における最初の段階的変化といえる。
たしかに土壌の肥沃さには限度があったが、人口がいずれ土地の供給カを超えてしまうかもしれないという予測は、 なおも現実的なものとはなっていない。
選択育種や遺伝子工学、灌漑、機械化農業、さらに合成化学肥料などによって作物の高収量化や家畜の増産が図られ、人口増加を十二分にまかなえるだけの農業生産が可能になっているからだ。
もはや飢饉と疫病は、人口増加にとって一時的な揺り戻しでしかなくなった。
農耕民たちが生活に必要以上の食料を生みだすようになると、人類史に第2の段階的変化が訪れる。

余剰食料が最初の富となり、その余剰を管理する者が共同体を支配する権力を手に入れ、階級社会や中央集権的な政治を指導するようになった。
食料に余剰が生じたということは、皆が農耕に従事する必要がなくなったということでもある。
当初こそ少数だったものの、人々はやがて工芸品の生産や交易、軍事的訓練、行政、宗教どにすべての時間を捧げることができるまでにった。

これらの社会的・経済的変化によって、初期には環境が集約的な農業にもっとも適した温暖な土地で、都市や国家、さらに文明が発展する。
最古の文明は独自に発展したが、その影響が拡大するにつれて、交易や外交、戦争、移住などを通して互いに結びつくようになった。
こうした結びつきにより、さまざまな考えや技術革新の拡大が促された。
たしかに個々の文明は袞亡したかもしれないが、文明自体が世界的に袞亡することはけっしてなかった。
歴史の軌跡は、より複雑で相互に結びついた文明へと向かっていったのである。
各地の都市は当初から文明の中心地であったが、人々の大半はなおも地方に住み、土地を耕し続けた。

一方、都市人口の割合は、18世紀に産業革命が始まるとともに増加していく。
これが人類史における第3の段階的変化であり、そこでは製造業やサービス業が農業以上に富を得る重要な手段となったのである。
そして、向上した農業の効率化に下支えされたこの変化によって、農民は上地から解放されて都市の工場へと向かった。
イギリスを皮きりに こうして労働者は仕事を求めて地方から都市へと移り住み、都市の爆発的な拡大を引き起こした。
19世紀になると、産業革命の波が大陸ヨーロッパと北米にまで広まり、さらに20世紀には、その波は南米やアジアにまで拡大した。

アフリカだけはまだ十分な工業化の恩恵を受けていないが、こですら都市への人口移入の波は押し寄せている。
2005年までに、狩猟や採集といった先祖伝来の生活様式は事実上消滅し、一方、世界人口の半分以上が都市に住むようになっているのだ。
今日、近代的な学問の専門化が進んで、小・中・高校や大学でのカリキュラムが狭められた結果、根本的かっグローバルな歴史の軌跡はあまりにも不鮮明になっている。
そこでは歴史的な出来事のより広範な背景が見失われてしまっているのである。
本書はこの見失われた背景をグローバルに提示する。
世界の歴史を多少とも地域ごとに区分けする伝統的な世界歴史地図とは異なり、本書はさまざまな時代の世界全体を見通した50葉以上の一連の地図に完全にもとづいている。

これらの地図では、初期人類の進化や移動ないし移住、農耕・農業の拡大、文化・国家・帝国の発展などを図表を用いて示している。
主題別の地図はまた世界の宗教や表記法、移動・移住、広域的な交易の発展をあとづける。
さらに各時代の世界人ロと5大都市(圏)を示した統計図は、きわめて重要な世界の歴史の軌跡を強調し、それぞれの年表は、慎重を期して選んだ挿絵ともども、政治や宗教、技術、芸術、建築の時代ごとの発展を示している。
本書は、これらすべての構成要素を結びつけて、人類史全体に対する比類のない俯瞰図をつくりあげているのである。













石器時代からコンピュータ時代まて
1,フランス南西部ブラッサンプイ出土の「ヴィーナス」像。
約2万5000年前


2,エジプトのギザから出土したメンカウラー王と両脇二柱の女神からなる三神一座像。
前2490ー前2472年頃


3,インドネシア・ジャワ島のボロブドゥール寺院とブッダ像。
900年頃

4,スルタンのアフメト1世がイスタンプールに建立したプルーモスク。
1609ー16年


5,インド南部ハンピのヴィルバクシャにあるヒンドゥー寺院。
14世紀


6,ジュセッペ・カスティリオーネ作『儀礼用甲冑を着けた乾隆帝』。
18世紀中葉


7,ハンス・ホルバイン(子)作『大使たち。
1533年、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵


8,アップル社のタブレットコンピュータ「iPad」。
2016年モデル

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